サマルカンドに着いた私たちは思わぬトラブルに絶望していた。
ホテルに充電コードを忘れた私の携帯の充電は切れかけ、同行者のSIMは繋がらない。
トラブルの詳細についてはこちらの記事をご覧下さい

異国の地で携帯が使えなくともお腹は空く。
辛うじて繋がったフリーWi-Fiで調べたプロフ屋は人気店だった。しかも、プロフがなくなれば営業終了してしまうらしい。
時刻は13:00。空腹とトラブルで不機嫌な私たちは、食堂Sharof Bobo Oshxonasiへと急いだ。
奥まった店舗は営業しているかわかり辛かったが、店内の出入り口付近にある大鍋の底には辛うじてプロフが残っているのが見えた。

店外観

プロフの大鍋
店員にジェスチャーで2名と伝えると、店の奥の席に案内された。
座席には、料理のイラストだけが描かれたメニューが置かれている。事前にGoogleでこれがメニューだと調べてなければ、謎のイラストを渡されただけだと思うだろう。ただ私たちは迷わず「プロフ」とだけ伝えた。店員はそっけなく戻って行った。

メニュー(?)
お昼時が終わって落ち着いたからか、店内には、大鍋をかき混ぜるおじさんと、立ち話をしているおじさんが数人。客より店員の方が多いくらいだった。向かいの席には、地元の子連れファミリーがいて、2、3歳くらいの子供が、私たちが座っている席の横を何度も楽しそうに往復していた。それ以外にも後ろの扉から、幼い子供が出たり入ったりしている。
どうやら店舗の奥は普通に家になっているらしい。

アットホームな店内
程なく、ポットのお茶と、トマトと玉ねぎのサラダ、白い冷製スープが出された。プロフを頼むと、これらがセットで出されることは事前調査済みだ。

お茶のポット

サラダとスープ
白いスープはヨーグルト味で、酸味と塩み、そしてディルの華やかな香りが混ざり、食欲を増進させる。トマトと玉ねぎのサラダも、素材がいいからか本当に美味しい。2%の充電で、料理の写真を撮りながら舌鼓を打っていると、程なくプロフがお出しされた。一緒にナンも出される。炭水化物✖️炭水化物。お好み焼きでご飯を食べるスタイルだ。

プロフ

ナン
一口プロフを口に入れて驚いた。
肉の旨みと、野菜やドライフルーツの甘味が染み込んだご飯が、油でコーティングされパラパラした軽い食感で口にはいってくる。
プロフとは、肉、人参、玉ねぎ、米などを大きな釜で炒めて炊き上げる、中央アジア風の炊き込みご飯で、ピラフとチャーハンの合いの子みたいなイメージを持っていた。しかし、ご飯から滲み出る味の豊かさが、もっと別の奥深い料理だと告げていた。
また、事前の情報でプロフは脂っこいと言う話もあったが、そんなことはない。むしろ油が食べ心地を軽くしているくらいだ。よく煮込まれた玉ねぎ、にんじん、パプリカなどの香味野菜、ドライフルーツが肉の臭みを消し、かつ、その甘味が塩味を邪魔することなく、うまく調和している。よく煮込まれた塊肉をほぐして、口に入れる。ほろほろの肉が、バラ肉のトロトロ脂と合わさって、肉の滋味が口いっぱいに拡がる。口当たりの軽さと複雑な味覚の織りなす味の交響曲に、しばし呆然とした。

とろとろの肉塊
もしプロフの味に飽きたら、間にスープやサラダを挟んで口をさっぱりとさせて食べ続けることもできる。だがしかし、私は飽きることがなかった。クタクタの多様な具材が米の中にランダムに入っていることで、スプーンで掬う一口ごとに味が異なり、違った姿を見せてくる。

プロフセット
箸休めにナンを食べるのも良い。小麦の香りの強いナンはプロフとは違った歯応えがあって、食感の上でのリフレッシュになる。ナンを噛んでお茶で口の中を流してから、プロフを口に入れると、また新たな発見がある。
もはや私たちの脳内には、“カロリー”という概念は存在しなかった。頭の中で油まみれになったラム肉とパプリカとドライフルーツが、軽快なステップで踊っていた。
満腹かつ幸福感に包まれながら店内のトイレを借りる。ウズベキスタンは公共のトイレが少ないので、店舗でトイレを借りた方が良いのだ。
トイレに入ろうとするとよくわからないウズベキスタン語で捲し立てられた。ウズベキスタンの人は、観光客だろうと容赦なくウズベキスタン語で話しかけてくる。何かと思ったらトイレに先客がいるということらしい。待っていると、中から恰幅のいい年配の女性が現れた。
この店舗の住人であり、ラスボスのような風格と威圧感があった。ドアを開けかけた失礼で殴られなくて感謝しつつ、トイレをお借りした。
さて、こちらのお店はお会計一人あたり約600円(現金のみ)。
同行者は今回の旅行のベストプロフと言って譲らない。
(といっても、今回食べたプロフは二皿だけなのだが)
気づいたら携帯トラブルのことも忘れて、食べることに夢中だった。
なんとかなるか、と浮かれた気持ちも出てくる。
いいお店に巡り会えたことに感謝して、店を後にしたのだった。



